「みんなの意見」は案外正しい

★★★★☆

 いわゆる「集団の叡知」が成立するための「多様性」・「独立性」・「分散性」の必要性と、「集団の叡知」の働き方が、認知の問題、協調の問題、調整の問題といった問題の種類によって異なることを、いろんな事例を交えながら紹介している本。エッセンスはほんとにこれだけで、あとはこれらの条件が整った場合の素晴らしい事例と、整わなかった場合の悲惨な事例の紹介で埋められている。

 読んでいくと、条件がそろった場合の素晴らしい事例よりも、条件がそろわなかった場合の悲惨な事例の方が、サラリーマンとして仕事をしている自分のような人間にとっては身近に感じられてくる。何度も議論を重ねることで独立性・多様性・分散性を低めていき、最終的にとんでもない結論を導き出す旧日本的組織の例など、今の自分の状況と符合しすぎていて怖いぐらいだ。意志決定がうまくいかないように見えたら、この本が提示している枠組みでうまくWorkしていない部分がないか考えてみる価値はありそうだ。意志決定が対象としている問題ははどういう問題(認知・協調・調整)なのか。失われているのはどういう特性(多様性・独立性・分散性)なのか。
 自分のまわりのことでちょっと考えてみると、これらの特性を失わせる要素としてマスメディアが頭に浮かぶ。マスメディアは、政府の監督者として民主主義にはなくてはならないことになっているが、多様性や独立性を低減させることで民衆が正しい政治的判断を下すことを妨げている面もあるんじゃなかろうか。また、あるある大辞典の事件を見ていても、マスになりすぎるとマイナスの影響が強くなる気がする。

 分散性が役に立つのは、現場に近い人間の方が適切な判断ができるためだという。本の中では、「ローカルな知識は善」と書かれている。ただし、ローカルな知識を生かすためには、ローカルな知識を集約するメカニズムが必要で、これがなかなか 難しい…。最近はWeb2.0的ツールとか言われている、ローカルな知識を生かす(と言われている)ツールが増えてきているみたいだけど、どうにも集約の メカニズムが不足しているような印象。
実際、プロジェクトにWikiやポータルを入れるとそれなりに情報の流通は改善されるが、単に当たり障りのない情報が一元管理されるだけで意志決定に良い影響を与えるところまで至らなかったり、各自が書き込んだ情報が氾濫し、逆に使い物にならなくなってしまっていることもかなり多い。
 情報を選別するためのCoolなアプローチとしては、Google MiniとかBIみたいな分析が使えそう。たくさんの人が手軽に情報を評価できるようなものも必要だろう。ただそれ以前に、こういうアプローチで情報を利用するという文化的素地がまったくないのが頭が痛い点だ。加えて、そもそもこういうアプローチで処理していいケースとそうでないケースがあるかもしれない。このあたり、もう少し検討が必要だ。

 「自分一人で最前の意志決定をなそう」という気負いをなくしてくれるという意味で、肩の力を抜いて仕事ができるようにしてくれる本だと思う。

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