ウェブ進化論-User Generated Content-

 User Generated Content(UGC)について正確な定義は持ち合わせていないが、要は既存の供給者ではない、ユーザーが(たいていは無償で)提供するコンテンツのことだ。具体的には、Blogによる記事だとか、オープンソースソフトウェア(OSS)だとか、YouTubeの動画とか、そういうやつだ。主にテキストベースのコンテンツが対象なのは、Webインフラのサポートがテキストに対しては段違いに厚いからだろう。

 UGCはなぜこんなにメジャーになったのか?
  • 情報公開の手間を削減するテクノロジの出現
  • 情報公開に対して対価を与えるインフラの整備
まずはこの2つの要因により、情報公開のインセンティブが劇的に高まった。ただし、これだけではクズのようなコンテンツが世界中に溢れ、見捨てられて終わりだ。UGCが既存産業に対してここまで驚異となったのは、
  • 情報を整理するテクノロジの進歩
このせいだろう。Googleが強いのは、これらすべてに噛んでいるからだ。情報公開の手間を削減するテクノロジとして、BloggerやCalendar、Note、Map、Earth、Picasa、Youtube、Videoなどの豊富ツール群を。対価を与えるインフラとして、AdsenseとAdwardsを。情報整理のテクノロジとして、検索エンジンを。

 じゃあ、UGCは自分たちにどんな影響を与えるのか?まず、供給者側の立場から見てみる。今までそのコンテンツを提供することで生計を立てていた立場からすると、世界中に趣味で作品を公開するユーザーが発生することですさまじく低コストの競合相手が出現することになるため、たいていは何かしらの打撃を受ける。UGCの生成側はといえば、現在では、良い作品を公開できれば一定程度の収入を得られるようなインフラができているため、(現状は少ないながらも)対価を得ることができるようになる。消費者側は、テクノロジをうまく使いこなせさえすれば、低コストで良質のコンテンツを手に入れることができるようになる。トフラーが言うところの「生産消費活動(DIY)」がくみ上げられ、現実経済に組み込まれたのだ。膨大な生産消費活動をテクノロジの力で整理することで、産業の枠組みを変えている。

 では、UGCは産業をどの程度変えてしまうのか?たとえばソフトウェア産業では、業務ドメイン(適用領域)に特価しないようなOSSが豊富にそろいつつあるので、ミドルウェアベンダやツールベンダにはかなりの驚異となった。実際にかなりの企業が打撃を受け、市場から退場していった。しかし、梅田氏も書いているように、IBMやRed HatはうまくOSSを取り込むことに成功した。OSSはボランティアによるコミュニティによってのみサポートされるため、信頼性が求められる企業システムへの導入には顧客から難色を示されることもある。そんな場合に、IBMやRed Hatが有償サポートを提供するという形で一枚噛むのだ。
要は、信頼性が欲しければ、ボランティアではなくて有償のサービスを、というわけだ(実際は大差ないと思うが)。ニュースメディアメディアについても同じような状況だろう。Blogのライターには、マスメディアのような取材をする特権がないので、アクセスできない一次情報はどうしても存在する。ただし、ソフトウェア業界と異なり、Blogライターは、ライターの数と、プロの記者と異なり現場の当事者であるというリアリティおよび専門性で対抗しつつある。
 User Generated Contentはものすごい競争を生みそうに見えるが、こうして実際に競合が起こった業界を見てみると、やはりどこかの時点で均衡するもののようだ。
商用サポートの信仰が薄れる、マスメディアに対する信頼性が低下するなどの社会常識の変化や、マスメディアの特権の縮小などの制度の変化とともに、少しずつ均衡点も移動していくだろう。しかし、これらの変化のスピードはかなり遅いうえに、既存の組織もUGCを取り込む動きを見せているため、一定程度変革が進んだ時点で減速し、うまくいけば何か新しいものが生まれるのだろう。

 User Generated Contentが勃興してくる業界はどんな業界だろう?まずは、対象が無形資産のものについて、テクノロジーの進歩と歩調を合わせるようにして野火のように広がることが予想される。写真や動画、音楽などについてはかなり進んできている。
さらに、オンラインで設計情報を取得し、対応する材料を投入することでリアルな製品を作る「デスクトップ製造機」の研究が進められている。現在ではかなり単純なものしか作ることはできないが、将来的には複雑な機械を製造することも視野に入れているようだ。こうなると、UGCとして現在は有形資産と見なされているものすら対象に入ってくることになるだろう。デザイナが食器の設計情報を直接ユーザーに売れる時代がくるかもしれない。

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